太陽を撮るために直接、目で見るのって、大丈夫?

目はもともと、虹彩や黄斑色素(特にブルーライトに対する防御フィルターと抗酸化能力を持ち、網膜の中央2-3mm範囲にある)などによって目に到達する光の量を調節できる機能を持っています。しかし、
昼間に太陽を長時間直視すると、防御機構の限度を超える光が目に入るので、光化学反応により網膜や角膜の炎症をおこします。

眼球

日レ医誌 第32巻第4号(2012) P.438より

なぜかというと、エネルギーの高い光を浴びることで、目の中の視色素から活性酸素などが発生して、それがしばらく眼内にとどまるため、網膜の損傷は徐々に進むことがあります。
観察中や観察直後に何も症状がなくても、数時間後、翌日、あるいは数日経ってから症状が出る場合もあります。
特に日食のような天体ショーで、事前知識がないまま、見上げたり、写真を撮ろうと太陽を直接見てしまったため、目に障害を起こした人が、たくさん眼科医のところに訪れるケースがあとを絶たないそうです。
なぜこういう症状になるのか。どうやって観察するのが安全か、ご紹介したいと思います。

安全な観察法

日食観察のためにつくられた日食観察グラス」を正しく使用する
もっとも危険の少ない観察方法は、厚紙にあけた小さな穴を通した太陽の光を白い紙に映すと、太陽の形がわかります。

穴は円くなくてもかまいません(ピンホール効果の原理で投影された太陽の形を見る)。

危険な観察法

望遠鏡や双眼鏡は、肉眼で見るよりもはるかに多くの光が集まるので、絶対に望遠鏡や双眼鏡で太陽を直接見てはいけません。

下敷き・CDやDVD・現像済みのフィルム・すすをつけたガラス・サングラス・ゴーグル等を使った観察
太陽の光や熱が十分に遮断されないため危険です。
(また、観察専用グラスは、レンズで光を集めた状態の光には対応していません)
特にリスクが高いのは、晴れた日の観察、眼球の透過性の高い乳幼児や小児。
*白内障手術で眼内レンズを入れている方は、紫外線吸収型かどうかの確認が必要かもしれません。

こんな太陽観察グラスは危険

日食観察を目的としたさまざまなグラスが市販されていますが、不適切な製品を用いると、目を傷める危険があります。
時には重症化することや後遺症が残ることもあります。
日食観察グラスを使う際は、下記を参考に、品質や性能を確認した上で、正しく使用してください。
(詳細は、日本眼科学会サイト参照)

明らかに危険な日食観察グラスの見分け方

(2012年金環日食日本委員会ホームページから抜粋)

主なチェックポイント(こんな日食観察グラスは危険です

  • 室内の蛍光灯を見て、一見して明るく、形がはっきりと見える製品
    可視光線を十分に減光している製品の多くは、かすかに蛍光灯を確認できる程度の見え方です。
  • 可視光線や赤外線の透過率が高い製品
    安全性の検討材料となる数値として、可視光線で0.003%以下、赤外線で3%以下という目安があります。(あくまで目安)
  • LEDライトなどの強い光にかざした時に、ひび割れや穴が確認できるもの
  • 消費者庁のサイトもチェックする
  • NDフィルタの多くは風景をきれいに写すためのものです。人間の目に有害な赤外線などを減らす目的では作られていません。つまり、暗く見えても悪影響のある光線を通している可能性がありあり、メーカーのサイトにも目で直接見ないように注意を促しています。この件については最近周知されてきましたが、過去にはあやふやな解説や記事が多かったり、あるいはNDフィルタを取り付けてそのままカメラで覗いて撮影できるような記述の記事があるので注意しましょう。デジタルカメラや携帯のカメラは、常に明るさを測って適正な露出になるように設定されており、太陽の明るさは想定外になります。ですから、太陽にカメラを直接向けると、露出を計測する内部センサーが破損する危険があります。破損防止のためには専用フィルターを使う必要がありますが、価格は1万円程度。また、ライブビューでのピント合わせがベターです。

朝日や夕日はよく写真に撮ってるけど?

時間帯によって影響の度合いが変わってきます。昼間の太陽が危険です。
その理由は・・・

昼間の太陽

昼間の太陽は、地球の大気の層の厚さ約100kmを通って地上に到達します。
頭上から通過する大気の層は、朝や夕方の斜めの光の時ほど厚くありません。
有害な紫外線(=可視光線より波長が短い電磁波)、赤外線(=可視光線より波長が長い電磁波)も、大気でフィルターされてるとはいえ、通過してしまうわずか0.01%の可視光線のうちの青色光や赤外線が目に悪さをします。

高エネルギー可視光線(high-energy visible light, HEV light)とは、可視光線の高周波数側の光で、分光分布の波長で言うと380nmから530nmの紫〜青色の最も波長が短く(380~530nm)エネルギーが大きい光が網膜を傷つける作用が強いです。

長時間直視すると、光化学反応により網膜や角膜の炎症をおこします。
紫外線は、眼に対する障害が一時的なのに対し、760ミリミクロン(mμ)よりも長波長の強烈な赤外線による障害は、永久的であり蓄積的です。
具体的には、太陽を直視した時間が累計で1秒以上続くだけでも、ヒトの網膜が損傷する『太陽性網膜症日食網膜症、日光網膜症)』は起こると言われています。
重症の場合、恒久的な視力低下や失明のおそれもあります。
観察の途中で休憩を入れても、観察時間の合計が長くなるほどリスクは高まります。
太陽光による眼障害は古代ギリシャ時代から知られ、ガリレオ・ガリレイ(1564-1642) も自作の望遠鏡で障害を受けたとの記録があります。

季節による違い

季節によっても日本の場合、太陽光の角度が変わります。

春分・秋分 → 55度
夏至 → 80度
冬至 → 31度
夏と冬では50°も変わります。

もし何時まで大丈夫か、など心配になる場合は、太陽の角度を計算できるサイトがありますので、参照なさってください。
太陽高度   (1日の太陽の高度(仰角)と方位の変化)

太陽の高度と方位角

(日本全国各地の、指定日の太陽の高度(仰角)と方位角の変化)

朝日や夕陽

太陽光線は、大気の層約1,000kmを斜めに通って地表に到達するので、
昼間を1とすると、フィルターを10枚重ねているような感じです。
昼間が99.99%の有害紫外線を大気が排除しているとすると、その10乗。99.99999999999999999999%の紫外線を排除している計算になります。
さらには大気中の浮遊物などによっても光が遮られます。
ですので、有害な光線はかなり弱められ、目で見ても網膜が傷つくことはありません。
だから撮影でカメラを直接覗いても朝日や夕日は大丈夫なんですね。

しかし、問題が起きやすいのは、珍しい日食の時。
昼間にみんな観測しますよね。

(2009年の日食観察時に眼の障害を発症したケースの中にも、日食観察用グラスを持っていても、カメラ操作時に何度か太陽を直視し発症したケースの報告があります。)
日食観察後の視力低下が初めて医学的に認められたのは 1722 年。
日食盲(eclipse blindness)とよばれました。

その後、19 世紀に日食網膜症(eclipse retinopathy)または日光網膜症(solar retinopathy)と命名されま した。

日本国内では、1888 年に 8 例の症例報告があり、1912 年ドイツで 3500 人の患者 が発生して社会問題化しました。

HEVを含む光源

自然光や人工光源の多くがHEVを含む。青色に見える光だけでなく、白色に見える光には等しくHEVが含まれる。
 
太陽光
ハロゲンランプ
カメラのストロボなど
水銀灯
殺菌灯
ブラックライト用光源
蛍光灯
白熱電球
紫色LED – ブラックライトや紫外線を含むものがある。
青色LED
白色LED
白色LEDでは、青色LEDに黄色の蛍光体を組み合わせることで白色光を実現しているものが多い。このため(他の白色光と同様に)青色成分により上記の青色光網膜傷害の原因となりうる[要出典]。
白色LED照明
LEDバックライト採用のディスプレイ、薄型テレビ、デスクトップ及びノートPCの画面、タブレット端末、タブレット – スマートフォンなど。